「下着の話だからねえ、当たり前の日常過ぎてあえてしなかっただけじゃない?」
「当たり前の日常?! 普通にオーダーブラ!? えーっ、私たちのお年頃ってそういうものなの? うわー、もうどうしよう、自分がひからびてたことに気づかされました。なんか今日イチショック……」
「たまにショック受けるのはイイことよ。刺激は脳を若返らせる」
「ショック鎮めるために、もう帰って、お風呂入って寝ようかな、なんだか今日、金曜日の雰囲気だけど違うよね、私たち明日も仕事だよね?」
「そうです、明日も平日です。ていうかさ、ほんと真木、働き過ぎなんじゃない? 先月は残業何時間?」
「85時間くらいかな、土日は出てもつけてないから、つけたらもっとだよね」
「それ、今でも真木の会社では普通なの? ちょっと前まではアホみたいに残業してたのはあたしも一緒だけど、これだけ働き方改革だのなんだの言われてるなか、おたくの会社はいまだに管理職はそれくらい働けっていう感じ?」
「会社全体としては勿論、長時間労働の是正とか有休取得の促進に努めてはいるよ。でも当然、そこで減らした時間分の仕事は当面溢れるじゃない。時間に見合う適正な業務量に急きょ誰かがキュキュッとしてくれるわけでもないし。だから今は、過渡期ってことなのか……、三六協定の対象外の管理職は、残業代も発生しないし幾らでも働けるだろう、吸収してやりなさいよっていう気配は正直濃い。実際そうはっきり言う上もいるし、言わないまでも明らかにそう思ってるんだなとわかる仕事量を投げてきたり、納期設定してくる上もいる」
「おたく、ビックネームなのに、いわゆるブラック企業なの?」
「今、真っ白の企業ってある? どこも必死でしょ」
「で、真木は文句も言わず深夜まで働いて毎晩、ししゃもと枝豆とゆでたまごとかしか食べられない日々を過ごしているわけ?」
「たまたま今週はね。というか今月はね。文句言ってる暇というか、余力がなくて……」
「倒れたら元も子もないんだからね。自分の心身の健康は、自分で守らないと。倒れ損だよ、100%」
「わかってる」
「新しい制度やルールってさ、出来てから熟成して定着するまでに時間かかるじゃない? 作った側の想いだけでもなく、利用する側個々人の意識が変わるまでにも時間がかかるし、自分自身は直接利用しなくても、新しい制度やルールを利用する人を周りで見守り、サポートしあう人たちの意識や理解も深まらないといけないとかさ」
「うん、そうだね」
「でもその過渡期とかいわれる期間にね、一部の人によからぬひずみや負担が集中して、歯をくいしばらせて、結果その誰かが倒れちゃうっていうのも、全然健全な姿じゃないと思うんだよ、あたしは」
「そう思うよ、私も」
「真木の会社の状況はわからないけど、とにかくやり過ぎないで。歯をくいしばり過ぎないで。昭和の残り組のあたしたちが、肩に力入れ過ぎず、心身ともに心地よく快適に仕事できるペースや環境にしていくことが実は結構大事なんじゃないのかなって思うから」
「どうしたの? なんか今日は、理沙が結花みたいなこと言うね」
「さっき、真木がマスターにオーダー入れにいってくれている間に、私も結花にお説教してもらったの。だから私も真木を説教しておこうかと思って」
「ありがたいのかありがたくないのか……」
「長時間労働が美徳だなんて、あたしたち全員、さすがにさらさら思ってないのはわかってるけど、結果まだそこから抜け出せてない自分の状況を、仕方ないってあきらめるのもやめたほうがいいってこと、改めて人に言われないと考えもしないでしょ。毎日あほみたいに忙しいと、その渦の中でジタバタしておぼれ死なないようにするのが精いっぱいで」
「だね」
「そんな渦に飲み込まれて会社と家往復して、激しい過労と消耗で、物事まともに考える気力もすべて奪われて、気づけば60よ、定年よ。あっという間よ」
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【Vol.1】「してもらうこと」を当たり前としない女と「してもらうこと」に恐縮しない女
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■ご機嫌悪くない側の女(Side結花)
【Vol.1】受験、就活、婚活、妊活。どれもゴールだと思ったものは、必ず何か次のスタート
【Vol.2】自分ひとり好き勝手に生きてりゃ、誰からも感謝なんてされるわけない虚しい人生?
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- 登場人物 -