「えーほんと? 信じられないわー。言いたいことがある時は、堪えすぎずに言った方が、お互い体にいいと思うけどなあ」
「理沙はちょっと堪えたらどう? あなたは要らぬ修羅場をくぐり過ぎよ」
結花ちゃんのクールな突っ込みに、谷原さんが「すみませんね」と肩をすくめる。
「今日は、彼と一緒に病院に行ってきた帰りなの」
「病院って、旦那か須藤さん、どこか悪いの? あー!もしかして最近はやりの“夫婦で受ける人間ドック”とか? それ、ペアドックっていうんでしょ? なんで検査まで一緒にしたがるんだ、あほか、って思ったけど、ペア受診限定の特典とかあるのよね、くやしー、何それーっってこの前、雑誌見て思ったとこ」
「理沙、ちょっとだけ黙って。理沙がそうやってしゃべりまくると、須藤さんがいつまでたっても話し出せないでしょ」
そういうと真木ちゃんは谷原さんの口に、大きめのモッツァレラチーズを2つ立て続けに押し込んで黙らせた。
「泌尿器科に行ってきたの」
「ってことは膀胱炎? あたしも前、繰り返した時あったなあ。免疫力が低下すると、すぐ細菌にやられちゃうんだよねー。あら?それなら、婦人科に行くか。ってことは、旦那? 須藤さんは付き添い?」
「理沙ってば!」真木ちゃんと結花ちゃんが同時に声をあわせて、もぐもぐしながらもどうしても口を挟んでしまう谷原さんのカットインを制した。
「彼も、私も。と言うか、二人一緒にかからないとまずいっていうか……ちょっと前から通ってるの。あ、でも今はもうほぼ治っていて、経過観察なんだけど……いずれにしても二人一緒に行かないとっていうか」
「おー、そっち系か」
そっち系とはどっち系ということなのか、私はまだほぼ何も説明していないのに、谷原さんも真木ちゃんも結花ちゃんも、すぐに察した顔で、全員そろって、ふむ、と真顔になった。
「なんだかあの……最初は、あのあたりに違和感を感じるようになって、だんだんピリピリするなと思ったら、しばらくしてものすごい痛くなって……」
「ちょっと須藤さん、あたしたちにそんな具体的に、症状を説明してくれなくていいわよ」
クスっと笑いながらポンと私の肩をたたいた谷原さんの笑顔を見て、やっぱり彼女達には何を話しても大丈夫なんだと、ホッとした。そして止まらず続けた。
「でも私、自分の体に何が起きてるのかわからなくて……そういう知識なかったから。保健体育の授業でも習わなかったよね? その……性病がどんなものかなんて……」
「学校の授業を一回も寝ないで全部聞いて、教科書隅から隅まで熟読しても、人生、生きながらじゃないと学べないことって、幾つになってもあるからねえ」
谷原さんのコメントに、結花ちゃんと真木ちゃんも、イエス、イエスと賛同する。
「すごい痛くなってきたし、あそこになんだか異物感はあるんだけど、私、怖くて自分で見られないから、もう病院に行くしかないって思って。勇気ふり絞って病院に行ったら、そしたら、旦那さんからもらったんだろうって。これは旦那さんも一緒に検査と治療しないとだめだって言われて……」
「まあ、そうなるわな。ちなみに、旦那は何も言ってこなかったの?」
「彼は全く無症状で、ほんとに全然気づかなかったみたい」
「必ずしも自覚症状があるとは限らないっていうけど、感染させた本人が痛くもかゆくもないって、なんとなく癪だねえ。須藤さんの旦那って、あそこに座ってる優しそうな爽やか青年でしょ? ほんと、人は見た目によらないねえ、まさかよそでパンツ脱いで性病もらってきちゃうような男には見えないもんね」
「理沙!」もはや慣れた感じで、結花ちゃんと真木ちゃんの同時制止が即座に入る。
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