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うつされた話と、子供を授かった話。全て包み隠さず、吐き出したかった…【小説・じゃない側の女 番外編~恥じらいを忘れない側の女 Vol.7】

【連載第7回】好む好まざるにかかわらず「じゃない側」からはそう簡単に抜け出せない。すべてのアラフォー女性に送るWEB連載小説の番外編『恥じらいを忘れない側の女(Side慶子)』
うつされた話と、子供を授かった話。全て包み隠さず、吐き出したかった…【小説・じゃない側の女 番外編~恥じらいを忘れない側の女 Vol.7】_1_1
版権:Ulada/Shutterstock.com
「このワッペンもらうこと自体は嬉しくて、お守りとして毎日首から下げて、おトイレに行った時とか、一日何回も一人で眺めるの。これを見るたび、じわーっと、ああ私、妊娠したんだなーって喜びが湧いてくるというか」

「やや本来の用途とは違う使われ方の気はするけど、まあそれ見て須藤さんが元気づけられるって話なら、ワッペン作った人も怒らないと思うわ」

谷原さんが苦笑する。

「結花ちゃんはこれ、どうしてた? しっかりつけて通勤したりしてた?」

「どうだったかな。もうだいぶ前のことだから、忘れちゃった。それよりねえ、須藤さん、私が言うのもなんだけど、ワッペンの使い方はさておき、とにかく体を大事にしてね。多分、妊娠中が人生で一番、自分自身を大事にできる時期だと思うから」

この中で唯一の出産経験者である結花ちゃんはとても心配そうに私の手を握ってくれた。

「釈迦に説法だとは思うけど、もらっちゃった病気の件、もう処置済で治っているとしても、当然ちゃんと主治医の先生に話して相談はしてるよね? 妊娠したのと旦那さんにうつされちゃったのと、どっちが先とか後とか、タイミングも病気の内容も、詳しいことはよくわからないし聞かないけど、とにかく先生の指示に従って、少しでもリスクや精神的な負担は減らしておくほうがいいと思うから……」

結花ちゃんに続いて真木ちゃんもまた、心配そうに私の顔を覗き込む。

そしてそこに「釈迦に説法じゃないわよ。この人、全然お釈迦さまじゃないから、なんでも言っといた方がいいって。むしろ猛烈に危なっかしいでしょ」と、容赦なく、谷原さんがかぶせてくる。

「じゃあ、妊娠・出産の経験者ってことでは、結花に。性病の治療とかそこからの回復ってことでは理沙に、聞きたいことあったらなんでも聞くといいよ」

と言う真木ちゃんに、

「お勧めはしないけど、この先離婚する運びになった折には真木に何でも聞いて、役所や銀行の手続きとか段取りとか、どの順番で片づけると効率的かとか、逐一詳しいから」

ひどいー!、そっちが先に失礼な物言いしたんでしょ! 子供じゃないんだから大声でもめるのやめなさい! と、またもやわちゃわちゃもみあう谷原さんと真木ちゃんと結花ちゃんの美女3人。

この3人、表現の仕方はさまざまでも、全員そろって私の体を思ってくれているのがわかる。その暖かさに、また涙がこみあげそうになる。妊娠すると涙もろくなるって本当だな。

旦那に性病をうつされた話と、旦那の子供を授かった話、どちらを先にすべきだったかわからないけれど、いずれにしてもここしばらく、親にも言えず独りで抱えきれないくらい悩んだり怖くなったり心配になったりしたことを、彼女たちに聞いてもらえて、心の底からほっとした。

病気をうつすような人の子供を妊娠したの? 大丈夫なの?と、おめでとうより先に、真っ先に非難めいたことをまず言われるのではないかという恐怖感から、誰にも言えなかった。

でも病気をうつされて治療していたことを隠して、子供が出来たことだけを嬉し気に話すのも、何か違うような……と心が不思議とざわついて、自分の身に起きた事実を全部、正直に、包み隠さずそのまま話せる人たちに会いたかった。吐き出したかった。

この人たちに会ったら、この人たちの前で、自分の身に起きたことをとにかく話したかった。全部聞いて欲しかった。聞いてくれると思っていた。

そしてやはり彼女達は、私を馬鹿にせず、嘲笑いもせず、ただ聞いて、そのうえで私の体をいたわってくれた。今の私には、そのことが無性に嬉しかった。

人の優しさが染みるという感覚は、こういうことなのかもしれない……と思うほどに、染み渡った。

ありがとう。谷原さん、結花ちゃん、真木ちゃん。

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