あ、この流れだと、あれほど「次こそは、絶対に聞く」と決めていた3人の連絡先、今日もまた聞けずに、さよならする予感……。
でもなぜか、それでいい気がする。
私は、彼女たちのことを親友だなんてもちろん呼べないし、大体ひとりも連絡先を知らないし、聞かれないくらいなのだから、下手したら友達というのもはばかられるくらいの関係なのかもしれない。
それでも。
それでも、人生のある時期、6年間を同じ場所で、同じセーラー服を着て共に過ごし共に育った彼女たちは間違いなくある種特別な存在だ。そう“同級生”という名の特別な存在。
40代半ばにして初めての妊娠、初めての出産。正直、予想外の妊娠。ふとした時に、震えるくらい怖くなったりもする。
でも、頑張ってみよう。いろいろあったしあるけれど、彼とも別れない。そう決めた。決めて今がある。
ひとつずつ乗り越えて、元気な赤ちゃんを出産しよう。そうしよう。
ここしばらく、頭がウニになるかのごとく、悶々としてきたけれど、シンプルに今の自分の思いを表せば、そう、それだけなんだ。
大好きな人の子供が出来た。それだけなんだから、そうしたいんだから、そうしよう。大丈夫。頑張ろう。
そんな風に自分を奮い立たせる勇気を、この“同級生”たちから、私はなぜかもらえる。少なくとも私は、勝手にもらっている。
自分が思うように、とりあえずやってみなって。
それが吉と出るか凶と出るか、そんなことはわからないし、誰にも保証できない。どの選択がよかったとか悪かったとか、そんなことわかるわけがない。だから無責任なことは言わないし、言えない。でも、自分がご機嫌な道をその時々に真摯に選択したら、その積み重ねの先にはいいことがあると信じて歩む方が楽しくない?と。
そんな風に、彼女たちは、各自それぞれ自分の足で立ち、自分の足で歩いてる。
団塊ジュニアと呼ばれる私たちの中学受験は、正直今ではありえない程に過酷だった。当時はまだ、軍隊みたいな塾もザラ。「勝利!」と書かれたハチマキ締めて、朝から晩まで塾に缶詰。教室では成績順に並べられ、出来が悪いと連日ビンタ(今じゃ暴力沙汰扱いだろうという程の激しさだった)。
大人の大きな手でバチーンと叩かれ、痛さでビリビリジンジンと熱くなる殴られた側の頬から耳にかけてをさすりさすり、歯をくいしばって涙をこらえる日々を続けた先に、やっとのことで入ったあの学校。
中学受験なんて、親が決めたレールだった。自分が望んだわけじゃない。だからこそ、あんな痛くて苦しい受験に、一体どれほどの価値があるのか、あったのか、正直学生の頃はそれほどわからなかった。
でも、人生ってわからない。
その時はわからなくても、あとになってその価値に気付くこともあるのだ。それって……不思議だし面白い。
何十年も経ってから、そこで出会った“同級生”に励まされ、何十年も経ってから、出会えてよかった、あの学校に通えて、あそこで出会えて良かったと思える時がくるなんて。
今日は会えて、本当に嬉しかった。
みんな、ありがとう。
じゃあ、また、ね。
(小説・じゃない側の女 番外編〜恥じらいを忘れない側の女(Side慶子)完)
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