「あとで、週末にまとめて作り置きできる常備菜のレシピ送るよ。そのへんのレシピ本より、確実に“働く女向け”に栄養面、時短面のバランスばっちりの厳選レシピだから」
「理沙、悪いんだけどせっかくもらっても、私、ほんとにカンタンじゃないと、やる気出ないと思うんだけどな……」
「大丈夫。洗い物も極力出ないように、材料切ってお出汁かオリーブオイルと一緒にルクエに放りこんでチンだけ、とか、とにかく楽に確実に栄養とれるものだけを選んでる」
「じゃ、もらう。理沙先生の言うとおり、生活改善はこれを機に始めてみます。それとしっかり塗り込む系のクリームを併用してみる」
「何? それ」
「ネットで探すとそのへんのドラッグストアには売ってない安全で効果も高そうなワキガクリームって、世の中いろいろあるんだよね」
「へー、そうなんだ。気にしたことなかった」
「ひっそり語られ過ぎだよね。もっと女性誌で、人気ワキガモデルが選ぶ絶対お勧めワキガクリームTOP5!とか特集してくれればいいのに。説得力あるでしょ? 洋服を大量に着替え続ける美モデルが“これはいいです、後にニオイを残しません!”とかって言ってくれると」
「いや真木さん、それは相当リスキーでしょ。人気モデルが、私ワキガですって宣言するメリットがわからないし」
「やっぱり、イメージダウンかな」
「聞くまでもなく」
「でもワキガは太古の昔から、異性を惹きつけるフェロモンだって言う人もいるじゃない?」
「言わない人もいるでしょ。ワキガはただの異臭だってイメージ持ってる人も、当然いるわけで。どっちかっていうと明らかにネガティブワードでしょ」
「じゃ仕方ない。その特集はあきらめる」
「そうして」
うなずきながら、片手でシャンパンボトルを持ちあげ、遠くのマスターに「これもう1本追加で!」と声を発さずジェスチャーだけで合図を送ってから、理沙は続けた。
「ニオイっていえばさ、ワキガだけじゃなくて口臭が凄い人多くない?」
「いるいる」
「内臓が悪いのか、歯が悪いのかわからないけど、『あなた奥さんに何も言われないの?』って思うくらい、ドブみたいな、生ごみみたいな恐ろしいニオイのおじさんとか、真木の会社にはいない?」
「いるね。言えないけど、女性でもいる。相当きつい人いる」
「窓がない会議室に入るとさ、その部屋に残るワキとか口臭のニオイで、前の時間帯、あーあの人がこの部屋のこの席に座ってたなって、あたし、クサさでわかるよ」
「やだ、そんなクサイ残り香で、私の居場所を特定されるようになったら泣いちゃう」
「まあ真木がそうなったら、ちょっと残念よねえ。あたしとしては面白いけど」
「全然面白くない。え、今、口はにおわないよね? はーってやるから、理沙ちょっと嗅いでみて」
「やだよ、自分で嗅ぎなさいよ」
「私がスメハラで訴えられたら大変でしょ? ちょっとだけ、はーってやるから」
家でやりなさいよ、お願いー、やだってばーと、わちゃわちゃしている私と理沙の背後から
「なーに? ここだけ、ひときわ賑やかねえ」
と軽やかな声がして、振り向くとそこには、いつもどおりふんわりとした甘いホワイトムスクの香りをふりまきながら、半分呆れたような顔で結花が笑っていた。
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【Vol.3】再びの独り身。気づけばお惣菜にカップラーメン、冷凍食品で生き延びる日々
【Vol.4】離婚とは、噂以上に気力体力ともに消耗するものなのですね…
■酸化に負けない側の女(Side理沙)
【Vol.1】「してもらうこと」を当たり前としない女と「してもらうこと」に恐縮しない女
【Vol.2】言えない。家中の食器使いきるまでシンクに洗い物をためてしまう、なんてこと
【Vol.3】「流れに身を任せて生きる」と「無気力 / 怠惰 / 無責任」は違うのに
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【Vol.1】仕事と育児に追われる分「それ以外のこと」を激しく欲することがある
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【Vol.3】私がおかしいのか、旦那がおかしいのか、何がおかしくて、おかしくないのか
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■ご機嫌悪くない側の女(Side結花)
【Vol.1】受験、就活、婚活、妊活。どれもゴールだと思ったものは、必ず何か次のスタート
【Vol.2】自分ひとり好き勝手に生きてりゃ、誰からも感謝なんてされるわけない虚しい人生?
【Vol.3】どこで間違ったんだろう?あれ?間違ったのかな?今いるここは間違いなのか…
- 登場人物 -