2018年10月29日

ハラスメントなんてしません、してません、するつもりありません！【小説・じゃない側の女番外編～酸化に負けない側の女 Vol.10】

【連載第10回】好む好まざるにかかわらず「じゃない側」からはそう簡単に抜け出せない。すべてのアラフォー女性に送るWEB連載小説の番外編『酸化に負けない側の女（Side理沙）』

「ねえ、理沙がさっき言いかけてやめた話って、もしかしてそれ？　毒素の濃度が俄然高まるストレスの話って、このこと？　よね？」

結花が苦笑しながら、あたしに問いかける。結花はほんと、人の話をちゃんと聞いている。いつどんな時も。

「うん。でもこういう話って、聞く人も楽しくないだろうし、口にすると自分の器の小ささが露呈するでしょ？　だから人に話すべきじゃないと思ってたんだけど、まあだいぶ飲んだから……」

「いいわよ、溜めずに吐き出しなさいって。そういう誰のことも責めづらい、でもなんだかよくわかんない理不尽な過労やストレスが、一番ダメージ大きいと思うもの。私や真木といる時まで、物わかりのいい管理職ぶらなくていいわよ」

「そう言ってもらえると……」

「やってられない！って思ったなら、そう言ってもいいんじゃない？」

「なんだろな、やってられない！という気持ちより、なんかちょっとこう……自分が嫌になってるんだよね、最近」

「どういうこと？」

「ビビってる感じが。自分に我ながらイラッとするの」

「理沙が？　何にビビるの？　もうちょっと具体的に言ってみて。どういうこと？」

「もしあたしが何か発言や対応を誤って、ハラスメントだって主張されたら問題だなってどこかでビビって、過度に慎重になってる気がするの。そんな自分がうっとうしい。電車でずっと両手挙げて、痴漢してません！ってアピールしてる男性みたいというか、あたし今、会社でずっと両手挙げてる感じ。ちゃんと話、聞いてます。軽視なんてしてません、妊娠出産される皆さんにハラスメントなんてしません！　してません！　するつもりありません！　出来る限りの配慮は勿論したいと思っています！って」

「なんかその状態、理沙らしくはないわね」

「でしょ？　社会人になってからずっと、失うものは何もないとばかりに、堂々とやってきたつもりなのに、ここに来て、いつの間にか気づいたら大勢のメンバー抱えるようになって、なんだろうな……とにかく無難に処理しようとしがちになって。あたしずっと、勝手気ままに渡り歩いて自由に発言してきた側だから、人から文句言われたり、訴えられるかもしれない側にいること自体慣れないのよ」

「それは慣れって話でもない気はするけど、まあ、どこの会社でも管理側に立てば、当然それなりの気苦労はあるでしょうね」

「それも給料に込みだって言われるでしょ？」

「まあね。でも理沙の業界は、そもそも女性比率が多そうじゃない？　だからどうしても女性のライフステージに応じた働き方をめぐるあれこれが、頻度多めに起こりそうで、大変なのかも……とはお察しするわ」

「うん。自分も含めて、みんなの考え方や制度が十分に成熟して整うまでには、もうちょっとかかりそうだからね」

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