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ひとりの女である前に妻?~の前に嫁?~の前に母?【小説・じゃない側の女 番外編~現役をおりない側の女 Vol.10】

【連載第10回】好む好まざるにかかわらず「じゃない側」からはそう簡単に抜け出せない。すべてのアラフォー女性に送るWEB連載小説の番外編『現役をおりない側の女(Side結花)』
ひとりの女である前に妻?~の前に嫁?~の前に母?【小説・じゃない側の女 番外編~現役をおりない側の女 Vol.10】_1_1
版権:Neirfy/Shutterstock.com
「ほんとですよ」

身を乗り出して、ぶんぶんうなずく須藤さんがほほえましい。

「結果、そういった方面のアプローチは全てご辞退して、まあその日の飲み代だけは、ちょっと多めに出してもらって帰る、と」

「実に収穫の無い飲みだなー。真木、何が楽しいのそれ」

「他の会社の仕事や会社事情を聞けるのは純粋に面白いし、やっぱり女とは違う見方をする男性の視点を聞けて、かつ美味しい物を人と食べに行けるっていうのは嬉しいんだけど……」

「真木にその気がなくても、相手の男側に『隙あらば』感が、ちらっとでも見えるなら、昔の知り合いでも二人で会うのはやめなさいよ。大人の女には、相手を受け入れる上品な隙はあっていいけど、つけ入られる下品な隙はなくていい。そんな要らぬ隙は、見せた女の方が悪いってことになるんだよ」

「理沙は場数踏んできただけあって、ほんと深いこというね。肝に銘じます」

「須藤さん、聞いた? あたしの話は深いって。勉強になるって真木さんが言ってますけど。男と女はいろいろあるんですよ。わかる?」

理沙と真木の真ん中で、二人の顔を交互に見つめながら息をひそめ、じっと会話を聞いていた須藤さんは、こくこくと小さく小刻みにうなづいた。

理沙はこんなふうに、男と女について実にさらりと、深いことを言うから面白い。
理沙の言う通り、純愛、結婚、離婚、不倫、再婚……と、いくつになっても男と女は「いろいろ」だ。

友情、恋愛、信頼、情欲、応援、尊敬、男女間に存在するさまざまな感情と関係性。引き合っては、ぶつかりあい、壊れては直しを繰り返してその関係性は育まれていく。出会っては別れてまた出会って……。

世の中的には、結婚をもって男女のペアが確定し、以後はその二人の中での話と関係性に限定される、もしくは、されるべきと思っている人が多いかもしれない。

でも私は。

全くそう思わない。

結婚してるとか、してないとか、セクシャルな関係があるとかないに関わらず、歳を重ねるごとにその時々の私という女を磨いてくれる凄い男と、これからまだまだもっともっと出会いたい。それが偽らざる本音。
 
でも。そんなこと軽々しく口にすると、
あなたには旦那さんがいるでしょ、既婚でしょ?
ひとりの「女」である前に、「妻」でしょう?
ひとりの「女」である前に、「嫁」でしょう?
お子さん2人もいるのよね? それなら
ひとりの「女」である前に、「母」でしょう?
……とか、ごもっともな顔して、偉そうになぜか絡んでくる人が、必ずいる。

何、それ。

私は、そんないちゃもんをつけてくる人にあうたび、心の中で「はあ?『前』も『後ろ』もありませんけど」と、ひとり思う。

なんですぐ、何々の前に何々、と順番をつけたがるのか、私には心底謎だ。何かの前に、でも、何かの後ろでもない。私は妻でも嫁でも母でも女でもある。私にとってそれらはどれも、私を表す同列の属性ラベルでしかない。 

私は私という、畠山結花という「人」であって、その私という「人」をあらわすラベルが、40年以上生きてくる中で少しずつ増えたり変わったりしているだけのこと。

そのラベルに前だの後ろだの順番をつける意味がわからないし、少なくとも私にとってそんな必要、全く無い。いつもどんな時も、娘であり母であり妻であり嫁であり働く社会人であり、ひとりの女だ。

……なんてことも、場を選ばず軽々しく口にすると、自分のことは棚に上げて他人をディスすることにばかり夢中になる余計なお世話の塊のような人たちから、的外れかつ悪意ある中傷を受けて無駄に疲労しかねないので、この歳になると、何事も軽々しくは口にしない。

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